あるコンサルタントからの手紙
*去年11月
コンサルティングファーム「ADL」の採用担当者「Fさん」にOB訪問、東京で会う。
朝8時から10時まで。
「南場智子さんはなぜマッキンゼーのパートナー(コンサルの最上位職)をやめ、事業を起こしたか」
というディスカッションを行った。
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僕は当時、新卒でコンサルになることに迷いがあった。
南場さんの著作に書いてあった次の文章を読んだからである。
「私はマッキンゼーのパートナーとなって一流のコンサルになった。しかし私は真の意味で超一流のコンサルにはなれない。なぜなら、経営者の悩みに共感できないからである。だから事業(DeNA)を起こし自ら経営者となった。(コンサルティング業界大研究より)」
コンサルタントは事業を経験してからでないと、本当の一流とは言えないのか?
この問が本当だとすると、最初は事業会社なりでそれなりに責任を負って、その後にコンサルになるのもアリなのではないだろうか、と僕は考えていたのである。
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その迷いを、Fさんにぶつけてみた。Fさんは、僕の考えをきれいに整理してくれた。Fさんが構造化した僕の考えとは、
「南場さんは
①自分が挫折した経験が無いから→②経営者の苦しみを真の意味で共感できずに→③自分は一流のコンサルではあるけど、『超一流のコンサルにはなれない』と悟り、マッキンゼーを退社。そしてDeNAを立ち上げた。
」
だと。
しかしFさんは違った仮説を示した。
「南場さんは
①経営者などのトップ層に提案をするが、年俸制の雇われ経営者は、必ずしも事業の命運に自分の人生を共にする覚悟があるとは限らない場合がある。つまり経営者は企業の将来の全責任を負っているとは言えない場合があり、そうした経営者のコンサルを請け負うこともあり→②そうした場合、責任を負えない経営者というものの理解ができず、どうしたら本気にさせられるかも分からず、コンサルとして本気で経営を改善する覚悟でやっている南場さんは共感などできようはずもなく→③自分は一流のコンサルではあるけど、『超一流のコンサルにはなれない』と悟り、マッキンゼーを退社。そしてDeNAを立ち上げた。
」
のではないかと。
実際のコンサルの実感としては後者が妥当なのではないかと。
そして僕の
「事業を起こした経験など無いまま、コンサルになっていいのか」
という問いには
「少なくとも今やりたいんだったら、やるべきだ」
という答えをくれた。
そして東京は元住吉のスターバックスを後にする。土曜日で彼は仕事が休み、この後息子と一緒に遊ぶ約束をしているから失礼するといって分かれた2時間ばかりの間の出来事であった。
*
密度の濃いディスカッションを終え、元住吉駅のカフェのベンチに座って会話を反芻していると、Fさんの携帯電話から電話がかかってきた。
「さきほどの話だけど、うまく伝え切れなかったのでもう一度伝えておきます。確かに事業の経験がないままコンサルになることは、ポジションが上になったときに相手に本当に共感できるかという問題は残ります。でも、コンサルタントとして一人前になるまでの道は辛く長く険しく、そしてやりがいがある道です。あなたが今コンサルになりたいという気持ちがあるなら、目指すべきだ。」
と。Fさんの後押しによりかなり勇気付けられた。
それ以降、2時間でもお話をしていただける場が持てるならば、たとえそのためだけであっても京都から東京までOB訪問は惜しまないことを決めたんだ。
*
ADLのセミナー、説明会に参加し、そしてエントリーを通過。先々週、10人でGDを行ってきた。
**
GDの合否は10日間連絡が無かった。同じ日に受けた友人は既に合否の通知が来ていた。
シビレを切らした僕は以前に「またいつでも相談があれば連絡ください」というメールをくれていたFさんに返信した。
「よかったらまたお話したいです」
と。
その2時間後、(Fさんからではなく、ADL人事部から)不合格通知が到着した。
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やはり落ちた人に構っている時間はないのかな、と少し寂しく思ったが、最後まで僕を成長させてくれたFさんにお礼のメールを書いた。
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Fさん
京都大のキャプテンです。このたびは採用プロセスに参加させて頂いてありがとうございました。(中略)そうしたコンサルであられるFさんは僕の中でコンサルの一人のロールモデルとして今まで目標となってきました。残念ながらADLは内定できませんでしたが、他のコンサルを視野に入れつつ、自分の活躍できる場所を探したいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
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翌日Fさんから返信が届いた。
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キャプテンさん
ご連絡ありがとうございました。
ご返事が遅くなり申し訳ありません。
弊社としては、今回は残念な結果となってしまいましたが、ぜひ今後もキャプテンさんが自分を発揮できる職場を目指し 就職活動に邁進していただければと思っています。
(中略)
その意味で、もし私にできることがあれば、コンサルとして働く一先輩として、キャプテンさんにお話させていただければと思っています。と言うより、せっかく知り合えたのですから、これからもぜひお付き合いいただきたいと思っています。
今週こちらにこられているようですが、木曜・金曜の夜はどちらでどのような予定になっていますか? 正直、最終報告を来週に控え、お約束はできませんが、もしお時間合えば(作業に目処がつけば)一杯飲みにでもいきますか?
ではでは、とりいそぎですが。
F
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やはり僕のADLへの志望動機となったFさんは、人を育てる意思のある、立派な先輩だった。
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